
野球の次はラグビーだ。
「ONE FORソース, ALL FORソース」
青春と書いて、焼そばと読む夏。
流れる汗に、根拠はいらない。「たくさん焼そばをすすれたほうが、マネージャーに告白できる」
俺とアイツは、チームに隠れてそんな約束をしていた。
仲間が知ったら、バカだなって言うかもしれない。
でも、不器用な俺たちには、そんな決め方しかできなかった。
チームメイトであり親友。もちろん、恋のトライも、一緒にスクラムを組みながら進みたい。
けれど、おんなじ人を好きになってしまったのだから、
ジャッカルするしかない。恋愛にノーサイドはないのだから。
何も知らずに円陣を組むキャンプテン。「食うぞ!」の掛け声がグラウンドに響く。 練習の疲れも、嫉妬も、恋心もぜんぶ、ソースに絡めて、ぐっと飲み込んだ。
でもどちらかが勝つってことは、どちらかが諦めるってこと、
気づくと俺は、涙を流しながら麺をすすり、そして、勝っていた。
心配すんな。必ず彼女を幸せにする。
そんな想いがアイツに届くように俺は叫んだ。
「爆盛りも!」「スポーツ的に正しくない!」
現場では助監督が声を荒げていた。ラグビー経験者である彼は、
CMという虚像が、ラグビーを汚すことが許せなかったのだろう。
ぶつかり合いを撮るために、ぶつかり合っていた。
私たちだって嘘は撮りたくない。
でも、怪我のリスクを考えるとこれ以上は…と弱気になっていると、
ひよってる奴いるかぁ?と言わんばかりに
「それでもやりたいです」と一人の選手が言った。
「2テイク。それ以上はやめましょう」プロデューサーがなんだか勝手に覚悟を決めた。
もう何のCMなのかわからないくらい、
ラグビーにみんなが本気になり、撮影もノーサイドへ。
誰ひとり怪我人を出すことなく、本物のラグビーをおさめることに成功したのだ。
そして、CM内では3.5秒ほどだけ使われ、残りは結構カットされた。
夏ってやつは、相変わらず情熱的で残酷ですね。
もうふざけたCMは必要ない。
72名の野球部がU.F.O.を貪り食うその姿で、
「ぶっ濃いソースが、青春の疲れまでもブチ抜く」ことを証明する。
マキシマム ザ ホルモンのアンセムが鳴り響く春。
これが日清焼そばU.F.O.なりの青春。「学生時代、力を入れていたことはなんですか?」
世では、”ガクチカ”と呼ばれる就活ではお馴染みの質問だ。
僕は自信をもって答えた。
「野球です。どんな辛い練習も、毎日乗り越えました」
「具体的にどうやって乗り越えましたか?」
面接官に追及された。ここでは、問題解決力が問われている、
頭ではわかっていても、僕はつい口を滑らせてしまった。
「U.F.O.を食べて、乗り越えました」
「なぜ、U.F.O.を?」
「ぶっ濃いソースが疲れをブチ抜くんです」
「……」
静かな時間だった。
この世に音なんかなかったと思わせるくらい、沈黙が続いた。
その後の記憶はない。
気づいたら、僕は家に帰ってU.F.O.を食べていた。
ぶっ濃いソースは、精神的な疲れもブチ抜いた。
また明日からも、頑張ろう。
疲れたら、またU.F.O.を食べればいい、
僕は、自分にそう言い聞かせた。かつてないほど順調に進む撮影。
最高の映像ができあがると、
誰もが確信した瞬間、事件は起きた。
「これ、蕎麦食ってるように見えないですか?」
まさに凡ミス。いや、盆ミスだった。
真っ黒なお盆を使った途端、
和食を食べているようにしか見えないという
わたしたちの大和魂が邪魔をした。
さすがにこれだけの人数の別のお盆を、
用意できるわけない。終わった…。
すると、ひとりのスタッフが口を開いた。
「あれ?昼飯食べたところのお盆借りれないですか?」
そうして、濃いグレーのお盆で撮影は行われた。
9回裏2アウトからの逆転満塁ホームランだった。